流星☆オン・ザ・バイシクル
◆
誰もいない夜の河川敷――。
夜空の下で舗装路に立てば、そこにあるのは道の一寸先も見えない圧倒的な闇。
水流のさざめきが空間を支配し、草木は頼りなしに小さくそよいでいる。
そんな夜暗を切り裂いて、それは姿を現す。
高速回転する鋭刃の如きカーボンディープリムの風切り音、そしてハイグリップタイヤと路面の過剰摩擦により発生するノイズと共に。
轟々とうなりを上げ、超高速巡航でサイクリングロードを突き進む。
高く突き出たサドルにスーパーローポジションドロップハンドル。流れるような前傾姿勢。
ヘルメットから流れ出る金色の髪は竜のように宙を舞い、金粉をまき散らすかの如く光る残像を造形する。
誰も見ることのない闇夜の道を、それはただひとりで走っていた。
――呼吸ひとつ乱さず。
白く美しい顔に微笑を湛えて。
夜の空に一筋の閃光を放つ、流星のように――。
●次話